筋トレを行って筋肉が増えれば、それによって基礎代謝量が上がることにより痩せやすく、太りにくい体質になるといった話は最近けっこう言われていることなので聞いたことのある人も多いと思います。
しかし、これは嘘、あるいは基礎代謝量は上がるが増える分は非常に僅かであり、体重の変化に影響を与えるほどではないと言う人もいます。
というわけで、筋肉がつけば基礎代謝は上がるのか、上がるとしたらどのくらい上がるのかを少し調べてみたいと思います。
ちなみに、基礎代謝量とは何もせずに安静にしていた時に消費されるエネルギーの量のことで、成人男性では1300~1600kcal、成人女性では1100~1300kcal程度とされています。
1日のエネルギー消費に占める基礎代謝の割合は50~60%程と非常に高くなっています。
基礎代謝は何で決まるか
基礎代謝量に影響を与える可能性のある因子としては以下があげられています。
- 性別(男性は女性より高い)
- 年齢(歳をとると代謝が落ちる)
- 体重(体重が重い程代謝量は大きくなる)
- 体組成(脂肪と除脂肪の割合)
- 身長と体重の関係(BMI)
- 栄養状態(飢餓状態では代謝量が落ちる)
- アドレナリンなどのホルモンの分泌の多寡(遺伝的な要素)
- 妊娠(妊娠中は代謝量が増える)
- 月経(生理中は代謝が落ちるとされる)
- 季節変動(日本人では夏に低く冬に高いとされる)
体重と基礎代謝に強い相関があることは確実となっていますので、筋肉量が増えれば(体重も増えるので)代謝量が上がることは間違いありません。
ただ筋肉がつくことで太りにくくなったというためには、同じ体重で比べた時に体脂肪率の高い人よりも体脂肪率の低い人の方が基礎代謝量が大きくなることが証明されていなければなりません。
基礎代謝量を知る方法には計測と計算があります。
計測は正確な値が知れますが、機械に接続されたマスクを装着して呼吸から酸素消費量を調べるので一般には実施が困難です。
計算には基礎代謝基準値に自分の体重をかける方法や年齢、体重などを変数とする式に値を代入していって求める方法があり(詳しくはこちらの記事を参照)、簡単に基礎代謝量を知ることができますが誤差も大きくなります。
体組成計で基礎代謝が出てくるものがありますが、あれも体重などの値を何かしらの計算式にぶち込んで出してるものだと思われます。
体重か除脂肪量か
体重と基礎代謝量に強い相関があることは確認されており、除脂肪量と基礎代謝量の間に強い相関があることも確認されています。
ということで体重と除脂肪体重のどちらも代謝に影響を及ぼすといえますが、一般には除脂肪体重の方が重要だと考えられています注1。
ただ除脂肪量には筋肉だけでなく内臓なども含まれています。
さらに筋トレで大きくすることのできる骨格筋が消費する代謝量は内臓よりもずっと少なく全体も20%程度とされています注2。
1kg当たりでは肝臓で1日200kcal、脳で240kcal、心臓および腎臓で440kcal、骨格筋は13kcal、脂肪組織で4.5kcalが消費されるという報告もあります注3。
とすれば、例え筋肉量が2kg増えても僅か26kcalしか基礎代謝量は上がらないということになります。
筋肉は内臓よりもずっと量が多いので全体で見みれば影響力は増大しますが、それでも臓器の方がずっと多いようです。
器官 重量 1日の消費エネルギー 全体に占める割合 肝臓 1.60kg 482kcal 27% 脳 1.40kg 338kcal 19% 心臓 0.32kg 122kcal 7% 腎臓 0.29kg 187kcal 10% 筋肉 30.0kg 324kcal 18% その他 – – 19% (体重70kgの男性の例。FAO(国連食糧農業機関) Energy and protein requirementsより)
まとめますと
- 体重(特に除脂肪体重)が増えれば基礎代謝量は上がる
- 筋肉の増加が基礎代謝に与える影響はそれ程大きくない
ということになります。
基礎代謝量は体重と強い正の相関を示しているのでダイエットによって体重が減れば基礎代謝量も減少するはずです。
筋肉が減少した場合と脂肪が減少した場合では筋肉が減った時の方が代謝の落ち込みは大きくなるはずですが、上の話が正しければその影響は非常に僅かということになります。
どんな筋トレをすれば基礎代謝量アップに効果的か
というわけで筋トレを筋肥大をおこして筋肉量を増やしたところで基礎代謝量の上昇は非常に僅かかもしれません。
がしかし、脂肪よりも筋肉の方が代謝アップに貢献しているのは確かだと思われるので、なにもしないよりはましなはずです。
基礎代謝を増やすためには筋肉を大きくする必要があります。
そのためにどんな筋トレが効果的かといえば、腕などの小さい筋肉を鍛えても増加量は高が知れてるのでやはり大きな筋肉に有効なトレーニングでしょう。
ヒトで一番大きな骨格筋は太もも表側の大腿四頭筋ですので、この辺を重点的に強化していくと効率がよいのではないかと思われます。いくつか筋肉を大きくしやすい部位に効果的な種目をあげておきます。
注1Body composition as a determinant of energy expenditure: a synthetic review and a proposed general prediction equation.
注2運動選手の基礎代謝量に関する研究
注3Specific metabolic rates of major organs and tissues across adulthood: evaluation by mechanistic model of resting energy expenditure