スロートレーニング(筋発揮張力維持法、LST、通称スロトレ)とは簡単にいえば普通の筋トレの動作をゆっくり行うというだけの筋トレ法です。
例えばベンチプレスを行うとき普通速度はあまり気にしないで上げ下げしますがスロートレーニングでは2~5秒ほどかけて上げ、2~5秒程かけて下ろします。
スロートレーニングで行うベンチプレスのイメージ
このようにすると普通に筋トレしている時のような高重量を扱うことはできなくなりますが、それでも普通の筋トレと同様な効果が得られるとされます。

スロートレーニングで筋肉が大きくなる仕組み

筋肥大を目的とする筋力トレーニングではその種目の動作を1回だけ行うことのできる負荷の75~85%程度の負荷をかけるべきだとされています。
それなのにスロートレーニングではそれよりもずっと軽い負荷でも筋肥大が得られるといいます。なぜでしょうか。

はっきりとはわかっていないところもあるようですが、筋肉の内部環境の悪化が主な要因とされています。

筋繊維には弱い力しか出せないが長時間使える遅筋繊維と強い力が出せるが短時間しか持たない速筋繊維があり、筋肥大を起こすのは主に速筋繊維の方です。

速筋は大きな力を発揮する時にだけ使われるので、大きな力を出させるために高い負荷をかける必要があるとされているわけです。

タイプⅠ(遅筋) タイプⅡa(速筋) タイプⅡb(速筋)
収縮速度
持久力 中間
解糖系酵素活性
酸化系酵素活性
ミトコンドリア数 中間
ミオグロビン量 中間
グリコーゲン量 中間

上の表を見て貰えばわかりますが遅筋繊維はエネルギーを消費する際に酸素を大量に必要とします。

ところがスロートレーニングを行うと血管が圧迫された状態が続くので血流が阻害されて筋肉内の酸素レベルが低下します。
すると酸素を必要とする遅筋繊維は使えなくなり大きな負荷がかかっていなくとも速筋繊維が動員されるようになります。これはスロトレで筋肥大が起こせる理由です。
また血中の乳酸濃度が上昇し筋肉の分泌に有用なホルモンが多量に分泌されることも知られています(加圧トレーニングで筋肥大が起こるのも同様な理由によるものです)注1

メリット

スロートレーニングが効果的だとしてもわざわざ行うようなメリットはあるのでしょうか。思いついたスロトレの利点をあげてみました。

怪我の心配が少ない

筋肉の状態がどうであれ物理的にかかっている負荷は通常のウェイトトレーニングよりも少ないので、関節や骨への負担が減り怪我の危険性が低下します。
実際スロトレはリハビリや高齢者が筋力を保つためのトレーニングとしてよく用いられています。

自重でも筋肥大が目指せる

自分の体重のみを負荷とする自重トレーニングでは負荷不足に陥りがちで筋肥大を目指すのに効率的とはいえませんが、スロートレーニング化することで筋肥大を得やすくすることができます。
スクワット、腕立て伏せなど器具を使用しない自重トレなら自宅でも出張先でもどこでもできますので、この方法により場所を選ばずにある程度の筋肥大を目指せることになります。

デメリット

スロートレーニングにいいことばかりなのでしょうか。思いついたデメリットをあげてみました。

普通のウェイトトレーニングには劣る

スロートレーニングが筋肥大に有用なことは確かめられていて、高齢者に普通の筋トレとスロートレーニングをやって貰ったところほぼ同様の効果が得られたとの報告もあります注2
しかし、私の実感としてはオーソドックスなウェイトトレーニングの方よりは効果が劣るように思います。
特にある程度筋肉が発達している人にはあまりおすすめできません(停滞してきた時にやってみるのは面白いと思いますが)。スロトレだけでボディービルダーのようなレベルでムキムキの体をつくるのは難しいのではないでしょうか。

楽ではない

これはデメリットというべきではないかもしれませんが、かかる負荷が軽いからと言って別に楽なわけではありません。
むしろけっこうキツいです。スロトレを楽なものだと思っているとしたらそれは間違いです。

スロートレーニングが可能な種目

スロートレーニングはスナッチなどの一連の動作を素早く行う種目を除いて大方の種目で行うことができます。
ウエイトを使うこともできますし、自重でもできます。チューブを使ってもオーケーです。
なんでもいいのですがいくつかあげておきますと、

などがスロトレ化できます。
負荷は自由ですが、あまりにも軽い負荷だとぱんぱんにパンプアップするまで追い込むのに高回数やらなければならなくなるので最初からある程度の負荷をかけておくと楽です。

特にネガティブの動作(筋肉が引き伸ばされていく(エキセントリック収縮)時の動作)を意識的に行うと筋肥大が得られやすくなります。

注1スロートレーニング 谷本道哉
注2スロートレーニングとパワートレーニングのどちらの筋力トレーニングが高齢者の機能向上に有効か?